続いて、小林から”もうひとりの歌姫”という紹介でSalyuが登場。
Lily Chou-Chou「回復する傷」のメロディが、それまでの青葉の幻想的なムー ドをひきつぐように会場を包んでいく。
このイベント特有の醍醐味として、こうやって同じハウスバンドで違うシンガ ーの歌を聴くというのも貴重な体験だろう。シンガーそれぞれの個性がより際立って感じられるのだ。さきほどのどこまでもシルキーで口にすればあっという間にほどけて消えるような青葉のボーカルに対してSalyuの肉感的な弾力を持つボーカルがとても心地よい。
そして流麗なピアノのパッセージから「悲しみを越えていく色」へ。原曲がポップソングとしての厚みを持った佇まいであったのに比して、この日の<引き算>的なアレンジの美しさが光る。エフェクティブな名越のギターが添えられる以外はほぼ小林のピアノだけのシンプルな伴奏に、あらためてこの曲のメロディが持つ繊細な色彩が深く強く伝わってくる。青葉がある意味で<足し算>であったこととのコントラストも含めて心憎くも素晴らしい構成だろう。
2017年のReborn-Art Festival初回から参加しているSalyuから“また戻ってこれて嬉しいです”というMCを挟み3曲目「HALFWAY」。これは原曲にほぼ忠実なアレンジがばっちりとハマる。
そしてSalyuとしてのデビュー曲である「VALON-1」の耽美な広がりの世界へ。 その音世界に包まれながら強く感じられたのはこのあとラストを飾った名曲 「Lighthouse」とともに、スクリーンにも映写されていたSalyuの歌詞世界の芳醇さだった。
「VALON-1」の“宙を舞う夜光虫”や“銀の光る雫”といったリアルな色彩を喚起するイマジナリーな情景。そして「Lighthouse」では、“船”や“燈台の灯が照らす海”という遠景からとなりの“あなたがわたしの手を取る”ところまでの視点移動の広さ。“花火”がはじまり、終わり、煙が消えてしまうという時間経過のなかで、“風”や“光”を感じながらふたりが“今日から新しく生まれて”ふたりで生きていこうとする未来への希望へのなめらかな移り変わり。
このような情景と感情の微細なエレメントが交錯していく豊かな描写が、ポップ・ソングのフォーマットに丹念に織り込まれているということの驚き。思えばどちらの歌詞も小林武史の手によるもの。どちらかといえばプロデューサーとしての手腕が先にくる小林の評価だがもっと作詞家としても評価されるべき存在だとあらためて強く思った。
Text:Takeshi Kitagawa
M1:回復する傷
M2:悲しみを越えていく色
M3:HALFWAY
M4:VALON-1
M5:Lighthouse
「速報! Reborn-Art Festival 2019」(無料放送)
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