「転がる、詩」ライブレポート(4)

RAF 2019 のオープニングイベントとして8月3日、4日に石巻市総合体育館にて行われた「転がる、詩」のライブレポート(4)をお届けします。

 

photo by Yukihide Nakano

 

そしてバンド・メンバーの紹介を挟み、櫻井和寿が登場。客席ではこの日最大レベルの歓声が上がる。櫻井はステージ中央でアコースティックギターを静かに肩にかけると、ピアノ1本の伴奏から歌い出したのは「くるみ」だった。シンプルで静かなアレンジだが、曲が曲だ。決してさらりと歌いこなすというのではなく、スタートからいきなり100%の櫻井和寿の声がそこにはあった。

“「どんな事が起こるんだろう?」想像してみるんだよ” というフレーズの最後の切れ際などまるで咆哮のようにも聴こえるほどで櫻井の歌に力が入っているのがわかる。観客もさきほどまでの歓声を脇に置き、圧倒されるように聴き入っていた。いまさら櫻井和寿というボーカリストのパフォーマンスを褒めるというのも野暮なのかもしれないが、この冒頭からのエンジンの温まり方には脱帽だ。

そして「Sign」のイントロが始まると客席からはどよめきが起こる。考えてみれば、櫻井としてはこれまでも Bank Band やウカスカジーなど Mr.Children 以外で歌うことについてはそれほど珍しいことではない。しかし、Mr.Children の曲を Mr.Children 以外のメンバーと演奏することはかなりレアではないだろうか。そういう意味でこの Reborn-Art Festival というスペシャリティーがこの日の櫻井のステージには満ちていた。

MC ではイベントタイトルの由来やこの日の選曲の理由が櫻井の言葉で語られた。“(ことわざの「転がる石」から転じて)苔が生えない詩。その当時の思い出が浮かぶだけじゃなく今も違う感覚で届くような” と言いながらも “かといって歌詞だけが大事なわけじゃなく” とさだまさしの「北の国から」の一節を口ずさんでから “この曲もラララしか言ってないところがあって” と紹介され披露された「ラララ」。軽快でハートウォームなアレンジに会場からは自然とハンドクラップが起きる。

続く「ロードムービー」は Mr.Children としてはそれほどメジャーな曲ではないかもしれないが、その歌詞世界は特筆すべき素晴らしいものだ。例えるならばアメリカ文学のような、ブルース•スプリングスティーンのようなそんな乾いた詩的描写が、ややゆったりアレンジされた演奏で胸に響く。

そのあとの「CANDY」もまた、そんな歌詞世界を感じさせる佳作。“大抵人はこんな感じで大事なもんを失うんだろう” など、個人的なようでいて普遍性をもった櫻井独特の言葉が聴く側の想像力を喚起していく。

壮大な広がりのアレンジによる「花の匂い」に続き、「Tomorrow never knows」のイントロが流れると再び客席からはどよめきが起こった。若い世代なら中には生まれる前の曲という人もいるであろう94年リリースのこの曲は、MCで櫻井が言うようにまさに “今も違う感覚で届く” ものだった。ミスチル世代が10代20代で何度も聴いた “人は悲しいくらい忘れていく生きもの” という同じフレーズも、確実にこの日は違う意味を帯びていたし、30代、40代になってもなお “誰も知る事のない明日へ” なのだな、と言葉が染み渡っていく。一方で会場に居た現在10代、20代である人にはもっとまっすぐフレッシュな意味で響いていただろう。その詩はたしかにここで生々しく苔生さず転がり続けていた。

そしてラストは「Tomorrow~」にも並ぶ名曲「HERO」。はたして僕らはだれにそっと手を差し伸べることができただろうー。伸びやかなストリングスのフレーズに引っ張られながら Reborn-Art Festival と、石巻と、櫻井の<転がる、詩>によってそんな思いが胸に溢れた。

アンコールのクラップに迎えられバンドが再び登場。ここで冒頭から全編でリリックとともに映写されていた映像作家・中山晃子による映像がライブ・ペインティングであったことが明かされる。そしてラストは櫻井和寿と Salyu によるBank Band「MESSAGE -メッセージ-」と「to U」が。


photo by Yukihide Nakano

 

この2曲とくればどうしても ap bank fes を想起してしまうのだが、それゆえ ap bank が地球環境や自然災害の問題に長らく取り組んできた歴史がいまこの Reborn-Art Festival という場につながっているんだなということを実感した。 

世界ではいまも温暖化は解決されず、テロに怯える非対称な世界は続き、あらたな諍いの種ばかりが芽吹いているかのようにも思える。しかし、それでもこうして十数年にわたって変わらず強い意志をもった声を発し続けているアーティストがいて、それに拍手を送る観客がいることが、まだ僕らにとっての希望に満ちた光なのだろう。約3時間におよぶ言葉と旋律の多彩なタペストリーはこうして幕を閉じた。

 

Text:Takeshi Kitagawa

 

M1: くるみ
M2: Sign
M3: ラララ
M4: ロードムービー
M5: CANDY
M6: 花の匂い
M7: Tomorrow never knows
M8: HERO

EN1: MESSAGE ーメッセージー
EN2: to U



・「転がる、詩WOWOW にて10月放送予定
・「速報! Reborn-Art Festival 2019」(無料放送)
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